海外では常識!日本でも救急車の利用が有料に!?

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三重県松阪市は令和6年6月1日から3つの病院で救急搬送された際、入院にいたらなかった軽症患者に対して診療費とは別に選定療養費として7,700円(税込)の徴収を開始しました。

”救急車の有料化”として報道された今回の運用について、他の自治体や海外との比較も交えながら解説したいと思います。

■そもそも選定療養費とは?

大きな病院に患者が集中するのを防ぐための制度で、200床以上の病院に紹介状なしで受診した場合に発生する料金です。

令和4年10月1日の改定により初診時選定療養費の最低金額は5,000円から7,000円に引き上げられました。

基本的に救急搬送された際には適用外ですが、今回松阪市は入院を伴わない軽症患者に対しては選定療養費の対象とする決定をしました。

尚、入院にいたった患者や公費負担医療制度の対象者(特定疾患を持つ方や障がい者医療費助成を受けている方、生活保護受給者等)、災害や交通事故、医師の指示などで搬送された場合はこれまで通り選定療養費の適用外となり、救急搬送は無料となります。

■選定療養費の対象を拡大した背景

選定療養費の金額や救急搬送時の徴収は各病院の裁量に委ねられており、救急搬送時の徴収を既に実施してる病院も存在しますが、今回は自治体主導の取り組みとなります。

導入を決断した背景にはどういった理由があるのでしょうか。

松阪市を管轄している松阪地区広域消防組合消防本部によると、令和5年の救急出動件数は16,180件、実際に搬送された人数は15,525人と過去最高を記録しました。この内56.8%にあたる8,824人は入院にはいたらない軽症患者でした。

松坂市はこのままいけば将来的に「助かるはずの命が助からない」「早期治療が出来なくなる事態」を想定し、状況を打開するべく導入を決めたとしています。

■ほかの自治体の動向

茨城県では令和6年7月26日の定例記者会見において、都道府県単位では初めて救急搬送による選定療養費の徴収を検討していることを発表しました。

茨城県の大井川知事は搬送件数の増加や軽症患者の割合以外にも、医師の働き方改革による残業規制も理由の一つとして挙げています。

■全国的な取り組み

消防庁は全国的に起きている救急医療ひっ迫への対策として、救急車を呼ぼうか迷った時には、専門家に相談できる#7119に電話してほしいと呼び掛けています。

東京都では#7119の運用を開始して以来、軽症率が減少し、救急出動件数も全国平均と比べ抑制効果があったとして、救急車の適正利用に有効としています。

■海外の救急搬送

ここまで日本の救急搬送における現状と自己負担額についてお伝えしましたが、海外ではどのように救急サービスが運用されているのでしょうか。

欧米では通報の時点で優先度を判定し適切な処置や搬送に繋げるトリアージを実践しています。例として3つの都市の搬送までの流れと搬送費用を確認してみたいと思います。

フランス(パリ)
  • 搬送まで
    • 救急通報の段階で救急出動の要否や、SMUR(救急起動組織)、消防、民間救急車等の利用が調整される。
  • 搬送費用
    • SMURの搬送……30分335ユーロ(2012年時点)
      • 任意保険に入っていると自己負担なし
      • 社会保険のみ場合は請求額の35%を支払うが、患者の状態により社会保険が全額負担する場合もある
    • 消防隊の搬送……無料
ドイツ(ミュンヘン)
  • 搬送まで
    • 救急通報の段階で優先度を判定しどの車両を利用するか調整をする。慈善団体や民間企業に委託している。
  • 搬送費用
    • 医師の指示による緊急病院搬送……無料
    • 医師の処方がある搬送……搬送費用の10%負担(最低5ユーロ、上限10ユーロ)
    • 医師の処方がない搬送……車両、治療方法などよって異なるが概ね100~600ユーロ
アメリカ
  • 搬送まで
    • 救急通報の段階で優先度を判定しどの車両を利用するか調整をする。民間会社やボランティア団体も活用されている。
  • 搬送費用(1ドル=120円で計算)
    • 患者搬送 (救命士無し)……84,000円
    • 救急搬送(救命士乗車)……143,000円~155,000円
      • その他距離や処置内容によって追加料金あり
      • 低所得者や高齢者には公的保険あり
    • 民間会社の患者搬送・救急搬送費:24,000円以上

有料とは言っても搬送車両や条件によって価格が異なることがわかりますね。
アメリカでは国内でも大きな価格差があり、救急搬送の平均価格はカリフォルニア州・ロードアイランド州・マサチューセッツ州が高くいずれも2,000ドル以上する一方、低い州のノースカロライナ州・ニューメキシコ州・バージニア州などは700ドル以下(Hospital Pricing Specialists社が発表した2021年度調べ)となっています。

おわりに

いかがでしたか? 海外よりも安価ですが、日本でも救急車の有料化が始まっています。もしもの時の備えとして、あなたの地域の救急情報や相談窓口などを調べておくといいかもしれませんね。

【参考資料】
三重県松阪市『三基幹病院における選定療養費について
松阪地区広域消防組合『2024年版概況
茨城県『知事定例記者会見における発言要旨240726
総務省消防庁『平成27年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書』 
総務省消防庁『平成23年度 社会全体で共有する緊急度判定 (トリアージ)体系のあり方検討会 報告書

執筆者:鍛治田祐子

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